子供の頃 本当はこう書きたかった私の読書感想文

前回の「対極なお話」というブログで

「私は、こんな事を書いたら学校の先生に変に思われちゃうかなと気にするタイプの子供だった。だから思っている事を正直に感想文には書けなくて、感想文を書くのは苦手だった。」

みたいな事を書いた私ですが、じゃあ、実際どんな感想を持っていたのかを今日は書きたいと思います。

私が子供の頃、本当の気持ちを書かなかった感想文はいくつかあったのですが、中でも断トツで登場人物に共感出来なかった作品が
「走れメロス」
でございました。

ここから先は、走れメロスに感動し、己のバイブルだと思っている方とかは、読むのを避けたほうがよろしかろうと思いますので、事前にお知らせしておきます。

子供の頃 本当はこう書きたかった私の読書感想文


そもそも私は、走れメロスの、かなり序盤から

「ん?なんだこれ。」

と思って眉間に皺を寄せていたと思います。

だって、メロスって自ら親友のセリヌンティウスを

「三日後に俺が帰って来なかったら、代わりに彼を殺して良いから。」

みたいな事を言って残虐な王様に人質として差し出すんですよ。

逆なら分かるんです。セリヌンティウスが、

「メロスが帰らなかったら、代わりに私を殺して良い。だからメロスを一度故郷に帰らせてやってくれ。」

とかなんと言って、セリヌンティウス自ら人質になったとかなら分かります。

でも、そうじゃありません。メロスが勝手にセリヌンティウスを指名して

「あの人、人質にして良いんで。俺が帰って来なかったら俺の代わりに殺してかまいません。」

みたいな事を言って、自分はさっさと故郷に帰るんですよ。

もうこの時点で、当時中学生だった私は、

「何これ?本当に親友なの?」

と違和感しかありませんでした。走れメロスは友情の物語だと、学校の先生あたりから聞かせれていたのに、まず最初に思ったのが

「え?これ本当に親友?」

だったので、最初からほぼ全否定です。

それでも、感想文を書かないといけないからと、頑張って読み続けていくと、今度はメロスの妹が出てきて、急に帰ってきたメロスに

「明日オマエの結婚式をするぞ!」

とか言われているのに、妹は頬を染めて喜んでいるんですよ。

いやいやいやいや。何でよ?と思いました。

いくら結婚相手が好きな男性だったとしてもですよ?いきなりお兄ちゃんに
「明日オマエの結婚式な。」
とか言われて喜ぶ妹なんて、どうかしているとしか思えませんでした。

唯一ちょっとマトモだったのが妹の結婚相手で、

「いやいや。明日なんて急過ぎる。何の準備もしてないのに。」

みたいな事を言って、メロスの申し出を断るんですよ。(当たり前だと思います。)でも一晩中メロスに説得されたかなんだかで、最後はメロスに押しきられて、結婚式を挙げる事になるんです。

何だそれ…。自分達の結婚式なんだからもう少し頑張れ!何でメロスなんかに屈してるんだ!と思いました。

で、妹の結婚式を見届けたメロスは、王様とセリヌンティウスの待つお城に帰るわけですが、その途中で

「やっぱり帰らなくて良いかな~。このまま村にUターンしても妹は俺を受け入れてくれるだろうし。」

みたいな事を思います。これは、まぁ良いのです。城に帰れば殺されるのが分かっているわけですから、途中そんなふうに思ってしまうのは仕方がないと思うんです。

でも何が理解に苦しむって、メロスは言っちゃうんですよ。セリヌンティウスに「途中、やっぱり城に帰らなくて良いかな~。」みたいな事を考えたと言っちゃうんです。

私は思いました

「それは言っちゃダメだろ…。」

と。でもまぁメロスはこう続けます。

「だから私を殴ってくれ。」

と。私は思いました、

「うん。セリヌンティウスにはメロスを殴る資格があると思う。勝手に人質にされて、メロスが帰って来なきゃ自分は死ぬのに、肝心のメロスは、途中でやっぱり城に帰らなくて良いか~なんて事を思い。せめてそれを黙っていれば良いものを、そんなの黙っているのは自分の気持ちがおさまらなくて辛い!とばかりに堂々と懺悔され。こんなん私でも殴る。そしてメロスとは友達をやめる。」

しかし、私の思惑とは、全く別の理由で、セリヌンティウスはメロスを殴ります。メロスの懺悔を聞き、メロスを許すために、メロスの心を軽くする為に殴るのです。

この時点で最早ついて行けないのですが、セリヌンティウスはメロスを殴った後に、

「私も一度だけ君を疑った。そんな私を殴ってくれ。」

みたいな事を言うのです。

私は思いました。

「いやいや。何でよ。セリヌンティウスは結婚式で飲み食いしていたメロスと違って、3日間ずっと監禁みたいな事されてたんだから、それだけで充分苦しんだじゃん。自分をいきなり監禁させた友達を疑うくらいなんだというのか。メロスとは全然次元が違うだろう。」

と。そして更に思いました。

「私がメロスならセリヌンティウスは殴れない。『いいや君には、じゅうぶん辛い思いをさせたのだから。これ以上痛みを与える事など出来ない。君は僕の為に耐えてくれた。3日間、殴られるよりもずっと辛い苦しみに耐えてくれたではないか。』とかなんとか言って絶対殴ったりしない。」

それなのに、メロスは殴るんですよ。これでおあいことばかりに、躊躇せずセリヌンティウスを殴るんです。

もう私なら絶対に友達をやめると思います。それなのに、最後は二人で泣きながら抱擁をかわし、友情は、ますます深まりましたとさみたいな感じで終わるんです。

もうさっぱり理解出来ないと思いました。この物語で暴君として書かれているのは王様ですけれども、メロスも充分暴君じゃないかと中学生の私は思ったのです。

主人公に共感出来ないなら、誰か他に共感の出来る人物はいないか?と思い探してみましたが、王様は論外だし、メロスの妹にも共感出来ない。セリヌンティウスはセリヌンティウスで悪い人じゃないのは分かるけど、お人好し過ぎて、これまた共感できない。

誰も共感出来る人がいないのです。

しかし、この私の気持ちを、そのまま感想文に書くのはダメだと思いました。

学校の先生が求めているのは、そんな感想じゃないと中学生の私は思ったのです。

だから感想文には、こう書きました。

「メロスとセリヌンティウスの友情は素晴らしいと思いました。」

と。ちゃんと、それっぽい理由も書いたと思います。

書き終わった後、なんとも言えない気持ちになったのを覚えています。

でも、今は思うのです。この「自分の気持ちは置いておいて、ある程度大人に求められる感想を書く」という能力があったから、私は子供の頃は国語が得意で算国必修の学研の先生が出来ているんだろうなと。

国語の物語文で、中々得点が伸びない生徒さんの中には、自分の気持ちは、とりあえず置いておいて、登場人物の気持ちを答えるというのが苦手なお子さんというのが一定数います。

今回の「走れメロス」の私の感想みたいに、自分の気持ちというのがあって、それが登場人物とか作者とか出題者の気持とかと壊滅的にズレてしまうと、それこそ壊滅的な得点を取ってしまうお子さんているのです。(私の息子は小学生までは典型的な、このタイプでした。)

中学生の頃の私のように

「自分の感想はこうだけど、でもまぁ出題者(先生)は、こういう事を求めているんだろうな。」

というのが、分かるお子さんは良いのですが、私の息子のように、分からないタイプのお子さんだと、登場人物と自分の気持ちが合致した時は高得点を取るけど、そうじゃない時は、どうしたのか?というくらい得点が下がってしまうお子さんがいて、要するに国語の得点に波があるお子さんの中には、こういうタイプの子がいたりします。

だから

「自分の気持ちと登場人物の気持ちは、必ずしも同じにはならないんだよ。」

というのを何度も何度も説明して、少しずつズレを直していくのですが、でも、こういうお子さんの方が、読者感想文は楽しく書けるのかもしれないとも思います。

子供の頃の私は、まさか自分が学研の先生になるなんて思ってもいなければ、自分が国語が得意な理由なんて分かっていなかったですからね。この能力をありがたいと感じた事など全く無く。(寧ろ、邪魔な能力だくらいに思っていたのです。)

自分の気持ちと、求められているであろう感想が一致しなくて、そして毎回求められているであろう感想を書く子供だったので、感想文を書くのは、正直な所、苦行に等しい事もありました。

だから本当に思うのです。読者感想文は、思った事を好きにかけば良いと。


「そういやウチの子、国語は得意だし、文を書くのもそんなに嫌いとは思えないのに読書感想文は嫌がるのよね~。」

と思った方がいらっしゃいましたら、それは中学生の頃の私みたいなお子さんなのかもしれません。

お心当たりがある方は、どうかお子さんに言ってあげてください。

「読書感想文は国語のテストじゃないんだから好きに書いて良い。」

と。それだけで、少し楽になるお子さんもいると思います。

それでは、最後まで読んでくださり、ありがとうございました。



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2022年07月28日 Posted bySakamoto at 11:06 │国語 読書

この記事へのコメント
確かにそうですね。おもしろいです。
確かにメロスとは友達したくない!
「メロスは自分勝手で強引だと思いました。」
なんて書いたら先生は
「なんだこりゃ!」ですね
Posted by けむし at 2023年05月06日 05:29
けむし様

コメントありがとうございます。嬉しいです。

今となっては、仮に先生に怒られたとしても正直に書いておけば良かったと思うんですけどね。

本は、読んだ人の数だけ感想があって良いと私は思っているので、私の教室の生徒さんにはまずは好きなように書いて欲しいと思いますねぇ。
Posted by SakamotoSakamoto at 2023年05月06日 22:46